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知っておきたい「経済安全保障」のこと

最近ニュースでよく取り扱われる「経済安全保障」というワードについて、皆さんも耳にした事はありますよね。ではなぜ近年推進されているのか、具体的に何をしているのか、そして私たちの生活や特定の地域、また、記憶に新しい冤罪事件にどのような関わりがあるのかを、JMPの2025年を締めくくるビジネスコラムとして、分かりやすくお伝えしたいと思います。

なぜ今、「経済安全保障」を進める必要があるのか?

これまで「安全保障」といえば、軍事力や外交で国を守ることが中心でした。グローバル化された世界の中で「経済的な繁栄・発展」と「国家の安全保障」はそれぞれ個別の領域として暗黙の中で認識されていたことと思います。しかし、現在は経済手段を用いて自国の戦略的な目標を達成すると同時に他国からの経済的な威圧や攻撃から自国の社会経済基盤を守る必要に迫られています。まさに「経済そのものが武器として使われる」時代になったのです。特に沖縄は観光立県、皆さんも思い当たることがあるのではないでしょうか?そうした「経済安全保障」、重要性が高まっている主な理由は大きく以下の3つの点です。

国際情勢の変化(他国からの圧力) スマートフォンやPC、軍事技術に使われる半導体や重要技術をめぐり、アメリカと中国の対立が激化しています。特定の国に資源や技術を依存していると、政治的に対立した際に「輸出を止めるぞ」と脅されたり(経済的威圧)、実際に供給を絶たれたりするリスクが高まりました。

コロナ禍の教訓(サプライチェーンの脆弱性) 新型コロナウイルスの流行時、マスクや医療機器、半導体などの輸入がストップし、日本国内で深刻な物不足が起きました。国民の命や産業を守るためには、重要な物資を海外(特に特定の国)だけに頼るのではなく、自国で作れるようにしたり、調達先を分散させたりする必要があると痛感させられました。

軍事と民生の境界が消えた(技術流出の防止) AI(人工知能)やドローンなど、民間の便利な技術がそのまま軍事兵器にも転用できる「デュアルユース(軍民両用)」技術が増えました。日本の優れた技術が知らぬ間に海外へ流出し、他国の軍事力強化に使われるのを防ぐ必要がありますね。

具体的にどのような政策になるのか?

日本国政府は「経済安全保障推進法」という法律を作り、主に以下の4つの柱で対策を進めています。

  1. サプライチェーンの強化(重要物資の確保)
    半導体、医薬品、肥料、電池など、国民生活に不可欠な「特定重要物資」を指定し、国内で生産する企業に補助金を出したり、備蓄を進めたりして、海外からの供給が止まっても困らないようにします。
  2. 基幹インフラの安全性確保
    電気、ガス、通信、金融、鉄道など14の重要インフラ分野で、海外製の設備に「ウイルス」や「遠隔操作機能」が仕込まれていないか、導入前に政府が審査します。サイバー攻撃や妨害行為を防ぐためです。
  3. 先端技術の開発支援
    AI、量子技術、宇宙分野など、将来の日本の競争力や安全に関わる重要技術を育てるため、国が資金(基金)を提供して官民協力で研究を後押しします。
  4. 特許出願の非公開
    核技術や高度な武器技術など、公開されると危険な発明については、特許を出しても内容を秘密に(非公開に)できる制度を作りました。

これに加えて、機密情報を扱う人の信頼性を国が調査する「セキュリティ・クリアランス(適性評価)制度」も導入されました。これは国家や政府が保有する、安全保障上とても重要な情報にアクセスする必要のある民間人や公務員に対し、その人物の信頼性を調査・確認する制度です。「セキュリティ・クリアランス」の日本での運用は世界各国と比較すると憲法上の人権の観点から、なかなか厳格さに欠けるという声もあるようです。これらも今後の法制度の変化を注視して行く必要があります。

企業や一般人への影響は?

企業への影響
プラス面: 半導体や蓄電池などの分野では、国から巨額の補助金を受けられる国内製造メーカーもあり、設備投資や研究開発を加速する好機ともなりそうです。

マイナス面: 誰と取引するか、どの技術を輸出するかについて厳しいチェック(コンプライアンス)が求められ、手間やコストは増えます。また、特定国とのビジネスが見直しを迫られるリスクも当然あります。

私たち一般人への影響
生活: 重要な薬や製品が比較的安定して手に入るようになりますが、国内生産への切り替えなどでコストは上がり、物価に影響する可能性もあります。

プライバシー: 「セキュリティ・クリアランス」制度では、機密情報を扱う仕事に就く人に対し、個人の経済的な状況や交友関係、海外への渡航歴、犯罪歴、精神疾患の有無などの個人情報が調査されるため、プライバシーへの配慮が議論されています。

沖縄県(国境の島嶼県)で気をつけておきたいこと

沖縄県は地理的に緊張が高まる地域に近く、島々(島嶼)で構成されているため、特有の課題があります。

通信・電力の孤立リスク
沖縄の離島は海底ケーブルでつながっています。万が一ここが切断されると、通信や電力が停止し、孤立するリスクがあります。そのため、ケーブルの二重化やルートの分散など、インフラの強靭化が急務とされています。実際に竹富島では総務省による「高度無線環境整備推進事業」を通じて離島伝送用専用線の維持管理費を補助していますが、採算が取れない離島のインフラを安全保障上の観点から支えるという位置付けだと言えます。

物流の途絶と備蓄
食料や燃料の多くを県外からの船便に頼っているので、これも万が一周辺海域が封鎖された場合に備え、十分な備蓄や、島内でエネルギーを賄える仕組み(再生可能エネルギーなど)を整えることが、本土以上に重要になりますね..。

神奈川の製造業(大川原化工機)の冤罪事件を覚えていますか?

横浜市の「大川原化工機」という機械メーカーの社長らが、不正輸出の疑いで逮捕・起訴され、後に無罪(起訴取り消し)となった冤罪事件です。これを経済安全保障の枠組みで見ると、安全保障対策の副作用とも言えるかも知れません。

この会社が作った「噴霧乾燥機」という機械が、生物兵器の製造に転用できる性能を持っているとして、警察(公安部)が「許可なく輸出した」と逮捕しました。しかし実際には、そのような性能はなく、警察側が不利な実験データを隠していたことなどが裁判で明らかになりました。

当時、政府や警察庁は「経済安全保障」を重要課題に掲げ、技術流出の防止に力を入れ始めていました。 専門家は、警察内部で「経済安保の実績を作りたい」「手柄を上げたい」という功名心が先行し、科学的な証拠を無視してでも「技術流出の摘発」というストーリーを強引に作ったのではないかと指摘しています。

経済安全保障は重要ですが、それが「国策」として独り歩きすると、無実の企業や技術者が犯罪者扱いされ、技術が潰されてしまう危険性があります。この事件は、制度の運用には冷静な科学的判断と、暴走を防ぐチェック機能が不可欠であることを教えてくれています。

経済安全保障は、今の不安定な世界で私たちの生活を守る「盾」として必要不可欠なものです。しかし、大川原化工機の事件のように、その「盾」の使い方を間違えれば、国民や企業を傷つける事にもなりかねません。

私たち一般市民も、政策のメリット(安定供給など)だけでなく、プライバシーや人権への影響といった側面にも目を向けていくことが大切ですし、また、自由法に則った民主主義国家としての日本の価値観をキープしながら、うまくリスクを管理していくというバランス感覚を身に付けなければなりませんね。

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