王さんと、海外ビジネスの現場から
私たちジェイ・エム・ピー(JMP)は、那覇に拠点を置く社員4名(中国人スタッフと台湾人スタッフが在籍)の小さな貿易商社です。沖縄を起点に、台湾をはじめとする環太平洋の国々とモノをやり取りし、日本の企業と海外の取引先をつなぐ仕事をしています。
小さな会社ですが、日々の商いは国境をまたいでいます。その現場に立って、私たちがはっきりと感じていることがあります。言語や文化、その土地ごとの商習慣を肌でわかっている人材の存在は、海外ビジネスの成否を大きく左右する、ということです。外国人材は、必ずしも人手が足りないから雇う人ではありません。会社の成長と、海外での仕事の成功を支えてくれる大事な戦力です。そしてその人が母国に持つネットワークや信頼関係は、日本人だけではどうしても届かないところに手を伸ばしてくれる、大きな強みになります。
今回は、当社で国際事業部の主任を務める王(おう)さんの話を交えながら、海外展開を考えている企業の方、これから挑戦してみたいと考えている企業の方へ、私たちが外国人材と働くなかで感じてきたことを、良い面も、気をつけたい面も含めてお伝えします。
王さんのこと
王宝雯(おう ほうぶん)さんは、台湾出身です。日本への交換留学を経て、台湾の日系アパレル企業で5年間、販売員と通訳を兼ねて働いていました。沖縄に遊びに来たことがきっかけで沖縄に興味を持ち、「もっと日本語を使う仕事がしたい」と、高雄で開かれた沖縄県の企業説明会に参加。最初は那覇・国際通りの小売店で働きはじめ、その後、縁あって2019年にJMPへ移ってきました。今年で入社7年目です。
貿易の経験はないままの入社でした。ご本人いわく、「いろんな分野に挑戦できそう」「海外出張の機会が多そう」という予感で履歴書を送ったそうです。
いまの王さんの仕事は、OEMや輸出入の実務、翻訳・通訳と幅広く、日本の会社と海外の取引先のあいだに立って商談を前に進めています。「こういう商品を探したい」「海外とのやり取りを手伝ってほしい」という相談を受けて、工場を探し、見積もりを取り、サンプルを取り寄せ、話がまとまればインボイスや証明書といった書類を整える。地味に見えて、どれもひとつ抜けると取引が止まる仕事です。
入社して最初に任されたのは、沖縄と台湾のコンクリート業界の交流会での通訳でした。専門外もいいところで、1か月のあいだ毎日8時間、日本語でコンクリートを勉強したそうです。「夢にまでコンクリートが出てきました」と笑っていましたが、本番では30人を前に通訳をやり切り、会場が沸くのを見て「ちゃんと伝わった」と手応えを感じたといいます。
このエピソードに、王さんの仕事ぶりがよく表れていると思います。知らない分野でも、まず自分でとことん調べ、相手に正しく伝わるところまで持っていく。彼女はいまも、食品から植物、工業製品まで、案件ごとにゼロから学び続けています。
言語や文化、そして信頼のネットワーク
海外との取引で最初に立ちはだかるのは、言葉の壁です。ただ、王さんや他のスタッフを見ていて思うのは、外国人材の価値はそこにとどまらないということです。言葉を訳せるだけでなく、相手の国の商習慣や、交渉の場での間合い、ここは踏み込んでいいのか待つべきなのか、といった機微まで含めて汲み取ってくれる。日本人だけでは読み取りにくいところを埋めてくれるのが、大きいのです。
信頼のネットワークも同じで、それは出身国や肩書きから自動的に生まれるものではなく、日々の丁寧な仕事の積み重ねから育ちます。
以前、王さんが台湾での沖縄展示会をサポートしたことがありました。それから2年ほど経って、まったく別の県内業者から「台湾とのやり取りに困っている。あのとき手伝ってくれた王さんを思い出して」と連絡が入ったそうです。その会社とは、今も台湾との窓口としてつきあいが続いています。
「昔まいた種が、いま芽を出した」と、王さんはそのことを話してくれました。海外との取引は、相手が困ったときに名前を思い出してもらえるかどうか、という信頼で回っている部分が大きいものです。その信頼を、王さんは一件一件の仕事のなかで静かに育ててきました。
もう一つ、日本人だけの組織では出てこない発想や視点が入ってくることも、外国人材と働く面白さです。違う前提を持った人がいると、「それ、こうしたらどうですか?」という一言で、当たり前だと思っていたやり方が揺さぶられる。少人数の会社ほど、その刺激はよく効いてきます。
迎える前に知っておきたいこと
ここからは実務的な話を。
これから外国人材を迎えようという方に、先に知っておくと安心なことをお伝えします。
まず、在留資格です。「どの資格で、どんな仕事ができるのか」を正しく押さえておく必要があります。王さんの在留資格は「技術・人文知識・国際業務」で、通訳や貿易実務はこの範囲に含まれます。ただし、採用時だけでなく、担当する業務が変わるときにも資格の範囲内かどうかを確認しておかないと、知らないうちに会社側が法に触れてしまうことがあります。「不法就労助長」といって、雇う側が問われる場合もあります。ここは思い込みで進めず、迷ったら専門家や相談窓口に確認するのが確実です。
労働条件も、国籍による区別はありません。労働基準法も最低賃金も社会保険も、日本人と同じように適用されます。手続きの話に見えて、ここには一つ、大事な姿勢が表れると思っています。外国人材を「安く雇える人手」と見ているうちは、いい関係は築けません。ましてや、在留資格や生活の基盤を会社に頼らざるを得ない立場に、こちらの都合でつけ込むようなことは、あってはならないことです。国籍ではなく仕事で評価し、同じ仲間として迎える。法律を守るより前に、まずそこが出発点になります。

文化の違いを越えて働くために
価値観や育ってきた背景が違う人と働く以上、すれ違いはどうしても起きます。それを減らすために、私たちが心がけていることが二つあります。
一つは、「やさしい日本語」です。あいまいな言い回しを避けて、短く、具体的に伝える。それだけで指示はずっと正確に伝わりますし、現場の安全にもつながります。
もう一つは、こちらから相手を理解しにいく姿勢です。王さん自身も、仕事で心がけていることとして「お互いの文化や背景への理解を深めながら、相手の立場に立って理解すること」を挙げていました。ただ、これは外国人材の側だけの努力に任せる話ではありません。迎える私たちの側も、相手が何に戸惑い、何に困っているのかを、こちらから聴きにいく。その往復があってはじめて、文化の違いは越えられるのだと思います。
小さな会社の、距離の近さ
王さんは、JMPの職場について「人数が少ないので社長との距離が近い」と話してくれました。仕事のことも、日本での暮らしのことも、社長がいつも相談に乗ってくれるから安心して働ける、と。
大がかりな研修やメンター制度を用意できなくても、社長やまわりの社員が、住まいのこと、銀行の手続き、地域のルールといった生活の立ち上がりまで一緒に考える。小さな会社には、そういう距離の近さという強みがあります。
大切なのは、この姿勢を一人が抱え込まず、会社全体で共有しておくことです。なぜ丁寧に受け入れるのかを社員みんなが同じように理解していれば、誰か一人が忙しいときでも、別の誰かが自然に手を差し伸べられます。受け入れは担当者一人の仕事ではなく、組織の文化として根づかせていくものだと感じています。
これからの課題
正直に書けば、外国人材と長く働き続けてもらうことには、まだ課題もあります。
外国人材は、日本人以上にキャリアやスキルアップへの意欲が高いことが少なくありません。だからこそ、3年後、5年後にどんな役割を任せたいのかを具体的に共有し、実績をきちんと評価していくことが、定着につながります。「外国人だから、この辺りが上限だろう」と本人に感じさせてしまわないこと。これは、小さな会社にとってもこれから向き合っていく課題です。
王さんは、これからの目標を「お客様一人ひとりの立場に立って、より質の高いサポートができる存在になりたい。提案力を高め、自分の成長を通じて、お客様と会社の双方に価値を生み出していきたい」と語ってくれました。こうした本人の描く将来像を、会社としてどう受けとめ、どんな場をつくっていけるか。そこが、私たちに問われているのだと思います。
おわりに
海外展開は、簡単な道ではありません。それでも、王さんや他のスタッフのように文化の違いを行き来できる仲間がいてくれることで、小さな会社でも国境を越えて動けるようになります。
王さんは、これから沖縄で働きたい人へのメッセージとして、「考えすぎると前に進めない。まずは挑戦してみることも大切」と話していました。迎える私たちの側にも、同じことが言えるのかもしれません。
JMPはこれからも、王さんや他のスタッフととともに、沖縄から環太平洋へ、新しい仕事をつくっていきます。この文章が、これから海外へ挑もうとする方の、なにかの参考になればうれしく思います。